フェア・トレードを探しに
FAIR TRADE TRAIL
「フェア・トレードを探しに」
FAIR TRADE TRAIL
スリーエーネットワーク/三浦史子 著
Art Direction & Design:D-KNOTS
Cover Illustration:D-KNOTS
定価(税込): ¥1,995
A5 / 口絵12ページ+本文304ページ
初版発行日: 2008/2/29
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スリーエーネットワーク
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【内容】
「フェア・トレード」とはアジアやアフリカ、中南米などの農産物や手工芸品を買いたたくのではなく、「公正」な価格で生産者と直接取引をする ビジネスのあり方であり、国際協力につながる運動のこと。その実情を求めて、フェア・トレード運動の本場ヨーロッパをはじめ、生産地のガーナ、インドを徹底取材し、現場の生の声を中心にフェア・ トレードの現状を伝える渾身の一冊。写真多数掲載。
著者の三浦さんが「フェアトレードって何だろう?」という問いの答えを探しに、フェアトレードの現場を訪ね歩いた記録です。取材レポートでありながら、未知の世界を探検していくような旅行記のようなスタイルで読ませる本でもあります。
D-KNOTSとしてはこの本の装丁にあたって、造本の観点からフェアトレード的なアプローチができないか? と考えました。
フェアトレードとは生産地や生産者の顔が見える商品を公正な価格で取引すること。つまり、フェアトレード商品を購入するということは、自分の支払った対価(金銭)が流通や生産者側にどのように渡って行くのか? が消費者の側から見えることを意味します。
その流れが本と言うプロダクトでどこまで実現できるのか? というチャレンジが、この本のデザインする上で決めた造本のコンセプトでした。
そして制作を進めるにあたり、著者の三浦さんからの要望をベースに編集の方も含め全員で話し合った結果、以下の条件を設定いたしました。
本を形成している材料である紙の原料が何から出来ていて、どこから来ているもので、誰が作っているのか? ということが完全にトレース(追跡)できる紙を使うこと。印刷・製本行程も完全にトレース(追跡)できること。その上で出来る限り環境負荷の少ない素材、方法を用いて本を作ること。
ペーパー選びの基準
・原生林を切ったパルプは使わない(0%)
・なるべく自然に換るもの(なるべく化学薬品を抑える。漂白するなら無塩素で)
・生産地や加工工程が最低限トレースできるもの
・遠くのものより、なるべく国内産(輸送で環境負荷がかかる。できれば地産地消)
・なるべく普段は捨てるもの(間伐材、藁など)
上記の条件をクリアしたエコロジーペーパーを数種類用いて造本する計画だったのですが……。これは大変に厳しい条件で、全てを実現することが無理だということはすぐにわかりました。
それで「なるべく」でない「絶対」の線引きとしては、「原生林を(破壊的に)切ったパルプを使わない」ということを第一に決めました。バージンパルプでも、FSC認証林などの「持続可能なように管理された森林の木材」や国内の間伐材ならOKとしました。また、トレース可能性については調査を進めたところ、現状無理だということはすぐにわかってきました。
その上で紙をいろいろと選んで造本に取りかかったのですが、2008年1月に「古紙配合率偽装問題」が発覚!!!! これには非常に参りました。困ったものです。
それでも当初のコンセプトをできる限り表現しようと、全ての紙を見直して古紙の配合率や、どの紙であればフェアトレード的造本を実現できるのか? を検討いたしました。結果、やろうとしていたことは全ては実現できませんでしたが、どう対処したかの顛末は、本書のあとがきに詳しいです。ぜひ御一読の程を。著者の三浦さんの結論もそのおかげで多少変化してしまいました。
カバーは「牛乳パック」をそのまま再生した「ミルクカートン」という紙を用いています。
~~色の付いたパックの印刷面が少し残ったままの断片が漉き込まれていて、1枚1枚異なる模様になっているという、牛乳パックからリサイクルされていることが一目瞭然の再生紙~~ がカバーになるはずでしたが、校了の2~3日前にとうとうこの紙も、模様以外はヴァージンパルプで作られていたと発覚しました。しかし、そのまま使いました。
本文用紙は4種類のペーパーを使っていますので、小口を見たらストライプ状にいろんな紙が並んでいます。
カバーまわりは「フェアトレードを通して世界が透けて見える」というコンセプトでデザインしています。
カバーの表には著者が見てきた現場のいろいろな風景がコラージュしてあります。そしてカバーの紙は透けやすい紙を選び、カバーの裏に印刷されている模様と表紙の模様が合わさった時にある文字が浮かび上がる仕掛けになっています。
古紙配合率偽装問題に翻弄されて当初掲げたコンセプトが全て実現できなくて非常に残念でしたが、逆に問題が発覚する前に出版されなくて良かったと思います。それこそデザイン偽装になってしまいますので。(苦笑) これが問題提起の良い機会になればと思います。
これからの時代、エコロジーという観点からの紙選びや環境負荷の少ない印刷方法、流通方法など、デザイナーが勉強し提案しなければならない事項がますます増えていくでしょう。
その実現にあたり、どこに見えない壁が存在しているのか? どんなところに障害があるのか? など、この仕事を通して学んだことは貴重な財産です。いろいろな意味でとても勉強になり、大変印象深い仕事になりました。